革新的技術の二面性: 生成AI時代の舵取り
肖像権を侵害するような画像の生成に、どれほど労力が必要なのかを確認するため、stable diffusionの環境構築後、動作確認のために画像を出力しました。
そして2時間後に出力した画像が以下の通りです。
(あまりにも露骨なため、モザイク処理とウォーターマークを施しています。上段は長澤まさみさん、下段は中谷美紀さんに対して、類似度が高く検出されました)
技術的敷居は、かなり低いことが確認できました。
この事実を踏まえ、以降の記事を読んでくだされば幸いです。
本記事では、インターネットの原初の設計思想から始まり、進化する技術とそれに伴う新しい課題について詳しく解説しました。
初期のインターネットの設計がもたらした情報交換の自由、生成AIの進歩と肖像権侵害問題、日本のインターネットコミュニティの自主規制の現状と重要性、そして各国政府によるAI規制の動きについて触れ、これらが技術と社会のバランスをどのように保つかについて語ります。
また、技術の進歩がどのように法律や倫理の新たな課題を生むのか、そしてこれらが私たちの未来にどう影響するのかについても考察しています。読者の皆様にとって、インターネットの歴史と未来の探求が、新しい知見や視点を提供し、何かのヒントになれば幸いです。
目次
はじめに
インターネットの原初の設計は、性善説とも言える理想に基づいていました。性善説は、人間は本質的に善であり、悪は社会的な条件や環境によって生じるという哲学的思想です。
この考えに基づいて、インターネットの初期の設計者たちは、オープンでアクセス制限の少ないネットワークを構築しました。TCP/IPプロトコルのような基本的な技術は、信頼できる情報交換を保証し、同時にネットワーク内での自由なコミュニケーションを促進することを目指していました。
しかし、このオープンな設計がもたらす未曾有の可能性と同時に、セキュリティの問題やプライバシーの侵害、そして悪意ある行動を助長する環境を作り出すこととなりました。インターネットの進化の歴史は、性善説の理想と現実の厳しい教訓との間に生じる緊張を際立たせています。
プライバシー侵害
インターネットの進化は多くの利点をもたらしていますが、同時にプライバシー侵害の問題も引き起こしています。特にソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の普及に伴い、個人のプライバシー情報が簡単に公開されるようになりました。SNSプラットフォームは友人や家族とのコミュニケーションを容易にし、新たな人々と繋がる場を提供しています。一方で、プライバシー設定が不十分であったり、ユーザーが設定を適切に理解していないことが、個人情報の漏洩を招く原因となっています。
例えば、故意でなくとも個人の写真や個人情報が広範に共有されてしまうことがあります。さらに、SNSプラットフォーム自体がデータを収集し、マーケティング目的で第三者と共有することも、プライバシー侵害の一因となっています。
また、データ漏洩事件もプライバシー侵害の大きな問題です。企業や組織が保持する大量の顧客データは、セキュリティの欠如により、外部の攻撃者によって盗まれるリスクがあります。近年では、大手企業のデータ漏洩事件が報道され、個人の信用情報や個人識別情報が不正にアクセスされ、悪用される事例が増えています。
これらの問題は、インターネットのオープンな性質と性善説に基づいた設計思想が、現実のセキュリティとプライバシーの問題にどのように対処するかを示す貴重な教訓となっています。プライバシー保護の技術と法律の進歩は、インターネット利用者が安心してオンライン活動を行える環境を作り出すために不可欠です。
生成AIと肖像権
近年、生成AIの進歩は目覚ましいものがあります。特にstable diffusionに代表される技術は、非常にリアルな静止画・動画を生成する能力を持ち、それが社会に多大な影響を与える可能性があります。
これら技術の進歩により、見分けが非常に難しい偽の静止画・動画が簡単に作成できるようになりました。
この技術の進歩は肖像権の問題を引き起こします。肖像権は、個人が自身の肖像をコントロールする権利であり、無許可での使用や改変を禁止しています。しかし、DeepFake技術・生成AI技術により、個人の顔が無許可で別の動画に合成され、そしてその偽の動画がインターネット上で広まる可能性があります。これは特に、政治家や有名人など、公の場に出ることが多い人々にとって大きなリスクとなっています。
例えば、政治家のスピーチを捏造し、偽のメッセージを広める動画が作成され、社会に誤解や混乱をもたらす可能性があります。
また、アイドル・女優の顔を使用して不快・不適切なコンテンツを作成し、その人物の評判やキャリアに悪影響を与えるにとどまらず、企業の株価を大きく毀損する要因となりえます。
さらに、一般人の顔画像から、その人物の名誉を侵害するようなコンテンツを作成することも可能です。これによっていとも簡単に、個人の信用を失墜させることが可能となってしまいます。
肖像権侵害のリスクは、生成AI技術の倫理的かつ法律的な課題を浮き彫りにしています。
日本におけるインターネット黎明期とコミュニティの勃興
インターネットが日本で普及し始めた頃、さまざまなコミュニティが同時に拡大しました。異なる興味を持つ人々が集まり、共通の話題で交流できるプラットフォームが提供されました。
特にアニメやマンガのファンは、インターネットを利用して情報を交換し、新たな作品を発掘し、そしてその魅力を共有することができました。
オンラインコミュニティの拡充と多様化のスピードは、年々はやくなりました。あめぞうや後発の2ちゃんねる、そして後にはSNSや動画共有サイトなど、多くのオンラインプラットフォームがコミュニティの発展を支えました。実況、2次創作の発表、新しいソフトウェアの提供などが行われ、コミュニティはより広範で多様なものとなりました。
1997年に設立されたドワンゴは動画サービス「niconico」を運営するようになり、派生したサービスを通じて、コミュニティ内のクリエイティブな交流を活性化させました。
2007年に設立され、14年間で4000万人以上のユーザーを獲得したピクシブは、創作コミュニティにとって大きなプラットフォームとなりました。アーティストやファンが交流し、新しい作品を発表し、評価し合う場となっています。
コミュニティによる自主規制
これらのプラットフォームは、コミュニティの自主規制とユーザー間の交流を促進することで、創作活動の拡充とコミュニティの健全な成長を支えています。しかし、技術の進歩とともに、これらのプラットフォームでもハメを外した例や悪用が生じた例が多数存在することも無視できません。
そのため、これらのプラットフォームは、技術と倫理のバランスを保ちながら、コミュニティの健全な成長と創造性の促進を図っています。(いわゆる投稿削除や垢BANなど)
革新的技術の誕生とその悪用、社会への影響
Winnyは2002年に故金子勇さんによって開発されたP2P技術を利用したファイル共有ソフトウェアであり、革新的アルゴリズムを用いていました。
しかし、Winnyの技術は著作権を無視してコピーされたファイルの送受信など、深刻な被害を引き起こす原因となりました。
これにより、暴露ウイルスの媒介やそれに伴う個人情報や機密情報の流出、児童ポルノの流通などの社会問題に発展しました。この問題は故安倍晋三内閣官房長官(当時)が使用中止を呼びかけるまでに至り、開発者自身が京都府警に著作権法違反の容疑で逮捕されるという異常事態にまで発展しました。(長過ぎる裁判の後に無罪判決が出ています)
このような背景から、Winnyの革新的技術は社会から拒絶される結果となりました。
Winny技術の悪用は、技術自体の可能性やそれによる経済発展性を見えにくくし、技術の発展や普及を妨げる要因となりました。この結果、新たな技術開発や採用に対する過度に慎重な態度を日本社会にもたらし、国際競争力の低下を招きました。これによって生じた日本全体の経済的損失額は、想像すらできません。
興味深いことに、大手掲示板などでは、個人情報の流出に関しての自主規制が自然発生的に形成されていました。これは、新しく生じた技術およびそのコミュニティが、自らのテリトリーを守るために行った、防衛本能的行動と言えます。
多くのコミュニティやグループは、自らのテリトリーを守るために自主的な警備やコンテンツの自主的な規制を行っています。コミックマーケットにおける自主的な警備は、その良い例であり、これらのコミュニティが自らの文化やテリトリーを荒らされたくないという強い意向を示しています。
新技術とそれに根付いた文化を構成する人々が、自らのテリトリーを守ることは、これらの新たな問題や課題に対処する一つの方法であり、それによってコミュニティ内外の人々との良好な関係を築くことができます。
一方、法的拘束力の欠如や抑止力の不足は、一部の悪意ある行動を助長する可能性があります。
権利団体からの圧力
権利を持つ団体からの抗議活動も、まだ数は少ないながら、報告されるようになってきました。
RIAA、AI音声クローン作成サイトを政府の著作権侵害監視リストに加えることを求める
RIAA wants AI voice cloning sites on government piracy watchlist
米国レコード協会(RIAA)は現在、AIによる音声クローン作成が著作権侵害の潜在的な脅威であると考えており、米国政府に対し、これを著作権侵害監視リストに含めるよう求めている。
「2023年には、無許可のAI音声クローンサービスが急増し、声のクローンを作成されているアーティストの権利だけでなく、基礎となる音楽トラックのサウンドレコーディングを所有するアーティストの権利も侵害した」とRIAAは報告書の中で述べた。
権力団体からの圧力は、往々にして過剰反応になることが多く、ディズニーによる著作権保持期間の大幅な延長、JASRACによる著作権料の過剰な請求などがその例です。
各国政府による規制の動き
AIツールを規制するために各国が講じている最新の措置を以下に示します。
オーストラリア
※法規制の準備段階オーストラリアは、AIによって作成された児童性的虐待コンテンツの共有と、同じコンテンツのディープフェイクバージョンの作成を防ぐために、検索エンジンに新しいコードの草案を作成させる予定であると、同国のインターネット規制当局が9月8日に発表した。
英国
※法規制の準備段階英国のデータ監視機関は10月10日、スナップ社(SNAP.N)のスナップチャットに対し、同社の生成型AIチャットボットのユーザー、特に子供に対するプライバシーリスクを適切に評価できていない可能性があるとして、事前施行通知を出したと発表した。
同国の競争当局(competition authority)は9月18日、開発者に責任を課し、大手テック企業が自社の壁に囲まれたプラットフォームに技術を縛り付けることを防ぎ、バンドルなどの反競争的行為を阻止することを目的とした7つの原則を定めた。
この提案された原則は、英国が世界的なAI安全サミットを主催する6週間前に発表され、英国が今後数カ月以内にデジタル市場を監督する新たな権限を担う際のAIへのアプローチを支えるものとなる。
中国
※暫定規制の実施中国は10月12日、生成AIを活用したサービスを提供する企業向けのセキュリティ要件案を公表した。これには、AIモデルのトレーニングに使用できない情報源のブラックリストが含まれている。
同国は8月に一連の暫定措置を発表し、サービスプロバイダーに対し、大衆向けAI製品をリリースする前にセキュリティ評価を提出し、認可を受けることを義務付けた。
欧州連合
※法規制の準備段階EUのAI法交渉を主導するブランド・ベニフェイ議員は9月21日、加盟国に対し、年末までに合意に達するために主要分野で妥協するよう促した。議員らは規則草案が法案として成立する前に、EU諸国と詳細を詰めている。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は9月13日、AIのリスクと利点を評価するための世界的な委員会の開催を呼びかけた。
フランス
- 侵害の可能性を調査中
フランスのプライバシー監視機関は4月、 ChatGPTに関する苦情を調査していると発表した。
G7
- 規制に関する意見を調査中
G7首脳は5月、AIの「信頼性」を維持するための技術標準の開発と採用を求めた。
イタリア
- 侵害の可能性を調査中
イタリアのデータ保護当局はAIプラットフォームを見直し、この分野の専門家を雇用する計画だと5月に高官が述べた。ChatGPTは3月に一時的に国内で禁止されたが、 4月に再び利用可能になった。
日本
- 侵害の可能性を調査中
審議に近い当局者が7月に明らかにしたところによると、日本は2023年末までに、EUで計画されている厳しい規制よりも米国の姿勢に近い規制を導入する予定だという。
同国のプライバシー監視機関はOpenAIに対し、人々の許可なしに機密データを収集しないよう警告した。
ポーランド
- 侵害の可能性を調査中
ポーランド個人データ保護局は9月21日、ChatGPTがEUのデータ保護法に違反しているという苦情をめぐってOpenAIを調査していると発表した。
スペイン
- 侵害の可能性を調査中
スペインのデータ保護庁は4月、ChatGPTによる潜在的なデータ侵害に関する予備調査を開始した。
国連
※法規制の準備段階国連安全保障理事会は7月にAIに関する初の正式な議論を開催し、「世界の平和と安全に非常に深刻な結果をもたらす可能性がある」AIの軍事的および非軍事的応用について議論したとアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)事務総長は述べた。
グテーレス氏はまた、一部のAI幹部らによるAI監視機関創設の提案を支持し、年末までにハイレベルのAI諮問機関の設立作業を開始する計画を発表した。
国による規制では、その影響力があまりに大きいため、新技術への参入障壁となったり、新技術の発展を阻害する可能性があります。
それによる経済的損失は、想像を絶するものがあります。
反対に、まったく法規制をしない場合、権利者・創作者の権利が侵害される可能性があります。この場合も、長期的に産業を衰退させる原因となりえます。
まとめ
本記事では、インターネットの原初の設計思想と、その進化に伴う様々な課題を解説しました。
初期のオープンな設計がもたらした自由な情報交換の価値は計り知れないものがありますが、それと同時にプライバシー侵害、セキュリティの問題、および悪意ある行動を助長する環境を生み出すこととなりました。
特に、生成AIの進歩は肖像権侵害の問題を引き起こし、その技術がどれほどリアルな静止画・動画を生成できるのかを実際に検証しました。また、日本のインターネットコミュニティの自主規制の現状と重要性についても触れました。
さらに、各国政府のAI規制の動きを紹介し、これらの規制がどのように技術と社会のバランスをとるためのものであるのか紹介しました。技術の進歩は止まることなく、それに伴い新たな課題や法律、倫理の問題が生まれています。
自主規制・国による規制のどちらも、技術と社会のバランスを保つための重要な要素です。
もしこれらの舵取りを誤れば、想像を絶する社会的・経済的損失を被ることになります。
読者の皆様にとって、何かのヒントになることを願ってやみません。
以上です。ありがとうございました。
参考
stable diffusionローカル環境構築
https://zenn.dev/ykesamaru/articles/f8038390e58e44
[このままでいいの?] 生成AIと肖像権
https://zenn.dev/ykesamaru/articles/212bad52a10e28
画像生成したらコラージュだった件
https://zenn.dev/shinya7y/articles/6442b1350418ef