医療における情報化と生体認証
電子カルテが普及しつつあり、患者を扱う情報も多くなった現代、医療現場ではバイオメトリクスをどのように扱うのが適切でしょうか。喫緊の問題として考えられています。
目次
生体認証とセキュリティ
医療における生体認証の利用は、主として電子カルテのセキュリティの強化という面です
NTT 東日本関東病院や、神戸大学附属病院(接触型 IC カードとの併用)などで生体認証を利用した電子カルテが稼働しています。
またアメリカでは医療情報の携帯性と責任に関する法律( HIPAA )に基づく厳格なデータへのアクセス管理に生体認証の応用が広く検討されるなど、この分野の流れを受けて医療分野における情報セキュリティ分野への応用での市場が立ち上がっています。
日本では、2004 年にバイオメトリクスセキュリティコンソーシアムが医療分野における生体認証技術普及の問題点や解決策を模索しましたが、生体認証に関して確実にニーズが存在するものの、どういう形でどういうソリューションを提供できるかは引き続きの検討課題として活動を終了しています。その際の結果としてまとめられた医療分野でのバイオメトリクス技術の利用考察と医療分野での応用を下の表に示します。
具体的には…
2004 年度の活動を通じて、具体的には以下のことが挙げられました。
- 医療過誤の防止
性格な患者識別による取り違い防止 - 医療従事者による正確な情報管理
電子カルテの普及による個人(患者)情報の保護や適切な取扱の重要性 - 複数医療機関をまたがる個人医療情報管理(医療情報ネットワーク化)
1生涯1患者1電子カルテ、電子健康手帳の利用キー
また、利用シーンの分類を試みたところ、下記の観点から「患者」に対しての「院内」での生体認証技術の活用を積極的に検討すべきではないかという事が議論されました
- 利用者
医療従事者(職員)なのか患者なのか - 利用場所
院内なのか院外(他医療機関、調剤薬局、自宅など)なのか
「よく分かる生体認証(オーム社)p.226-227」から引用
情報化を阻む問題点
電子化による透明性、一元管理、事故防止にむけて、様々な「壁」が存在します。
- 複数業者による複数の製品提供
- 情報入力時のヒューマンエラー
- 単一バイオメトリクスが万能である錯覚
- 現状の管理体制からのシフトコスト
- 導入コスト
ひとつずつ見ていきましょう
複数業者による複数の製品提供
電子カルテによる情報化が一般的に普及したものの、統一した規格がありません。
「各社方式に互換性がなく 極めて高価 ばかばかしい限りです。【開業医】」と仰る医師も居ます。
規格統一した電子カルテシステムでバイオメトリクス活用…はこれからの課題になります
情報入力時のヒューマンエラー
煩雑な医療業務の中で起こりうるヒューマンエラーに対してはどう対処するべきでしょうか。
例えば顔情報であればパット見で分かるのであまりエラーは起こりにくいですが、バーコードや IC チップなどでは可視化出来ず、一度起こったヒューマンエラーを改善する工夫がシステム内に存在することが好ましいと思います。
単一バイオメトリクスが万能である錯覚
生体認証は 100% を保証するものではありません。単一ではなく、複数の要素を取り入れるべきです。(顔認証技術の今後の動向(2))
例えば現行で販売されている顔認証システムの広告コピーをみると「精度99%」など多く見られますが、鵜呑みにするべきではありません。(本人拒否率と他人受入率の改善)
図のように複数の認証を取り入れることで信頼度(reliability)を向上させます。
現状の管理体制からのシフトコスト
医療の現場では様々な紙媒体と口頭連絡がなされます。それら全てを現状体制から電子化へするには段階的に取り入れるなどシフトコストを低減する工夫が必要です。現状の管理体制と電子化したものと逐一比較し、システムのブラッシュアップをする必要があります。
また現体制で人時がギリギリの場合、そもそもイニシャルコストを嫌う現場の雰囲気も重要です。
導入コスト
金銭的な初期コストやランニングコストに絞ってみても、現実的に厳しい病院もまだまだあるようです。
まとめ
電子化、システム化に及び腰になる医療機関もある中で、しかし電子化の波は確実に浸透しつつあります。厚生労働省の「医療分野の情報化の推進について」でも国の指針として推進を後押ししています。
初期の金銭的なコスト、ランニングコスト、導入してからの弛みない改良、規格統一、互換性の堅持…など、医療分野の情報化には様々な「壁」が存在します。
東海顔認証では金銭的なコスト・ランニングコスト・弛まぬ改良においてこの分野に貢献をしていきたいと思っております。